宝物
それはずっと昔から私の傍らに在った。
乱暴に扱ったり、存在を忘れていた時もあったが
相変わらずそれはそこにあった。
ある時私は気が付いてしまった。
それがとても大切なものだということに。
私は急にそれを失うのが怖くなった。
失くしはしないか、壊してしまわないか
いつも心配で仕方なくて。
大事に抱えていたいのに、怖くて手を触れることも出来ない。
私はどうしていいか判らなくなって
すこし離れた場所から
いつも不安な気持ちでそれを見つめることしか出来なくなった。
時が過ぎて。
ある日私は思い切ってそれに触れてみることにした。
おそるおそる手を伸ばすと
長いこと誰にも触れられなかったそれは脆くなっていて
私の手の中で壊れた。
失いたくないと願いさえしなければ
それはきっと今でも私の傍らに転がっていただろう。
私はとても悲しくなって涙を流した。
そしてほんの少しだけホッとした。
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