「パパはごきげんななめ」西成彦×伊藤比呂美



 どっかの国には、妻がつわっていると、夫もいっしょにつわるとかいう民俗があるそうです。たしかに、毎食、そばでうっぷうっぷげろげろやられるのは、あんまりきもちのいいものではありません。でもそこはしょせん他人、妻の痛みは妻の痛みです。げろをはく妻を尻目に、ぼくは、食べたいものを(そしてそれはあいかわらず、妻が、うっぷうっぷやりながら、作っていました)食べつづけました。
                          西成彦×伊藤比呂美「パパはごきげんななめ」より


 「つわり」という字は「悪阻」と書きます。なんて恐ろしい字なんだ。ちなみに「おむつ」は「御襁褓」です。なんかごわごわして固そうです。
 通常、安定期(妊娠5ヶ月頃)に入ると治まるつわりですが、私は出産直前まで苦しみました。二日酔いで吐き気がする時のような、熱がある時に何を食べても不味くて口の中がべたべたするような、あんな不快感が半年以上も続きました。まぁそのおかげでタバコを吸う気にもならず、禁酒・禁煙の苦しみは全く味わわずにすみましたが。

 そんな妊娠〜出産〜育児期を、私は伊藤比呂美の育児エッセイと共に過ごしました。「おなか ほっぺ おしり」シリーズや「コドモより親が大事」などの本に当時の私がどれだけ救われたことか。セックス・妊娠・出産といった女性の生理、コドモという生き物、恋愛、仕事、親などについてクールに語る彼女には大きな影響を受け、それはこのサイトで書く文章にも現れています(…はずなんだが?)。

 そこに登場する彼女の夫「西さん」。彼が書いた、「おなか・ほっぺ・おしり」シリーズの父親版とも言えるのが、冒頭で引用した「パパはごきげんななめ」です。引用した文(特にカッコの中)を見てもわかる通り、全然綺麗事は書かれていません。ぱっと見「ひどい旦那だなー」と思ってしまいましたが、多分世のお父さんのほとんどは、この時期同じ気持ちになったのでは? それを包み隠さず正直に言っちゃってるという点では、やっぱりえらい。でも、目の前でつわりで苦しんでる奥さんに向かって言っちゃうのはえらくないので。念のため。

 つわりの時期、自分が食べられないのも苦しいですが、それ以上に辛いのが食事を作らなくちゃいけないこと。まさかつわりの期間ずっと食事を作らないくてもいいって言ってくれるような優しい旦那さまはどこ探してもいないでしょう。それは仕方がない。

 しかし、妻がうっぷうっぷげろげろしながら作ったごはんをあたり前ような顔で平気で食べられる神経というのが理解し難いのも事実。
 もしもまだ、夫婦の間に恋愛感情が残っていたとしても、この時期にキレイさっぱり消え去ってしまうのではないかと、ふと思ってしまいました。そして男と女は「父親と母親」になるのだと。

 つわりがすごく軽くて、普段通りの家事ができる奥さんだったらラッキーだと思ってください。これから結婚する人も、伊藤比呂美と西成彦のエッセイは読んでおくといいと思います。綺麗事でない、結婚生活の実態が少しは判るかも。

 もっともこのふたり、とうに離婚しちゃってるんですが。




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